北区の帰宅部の媚薬

エロマンガ(雑誌)の感想を書きます

WEEKLY快楽天 2023 No.44の感想

 部屋が暖まらないと指が動かなくてブログが書けない。
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『依々恋の恋』ちりぬいろは

 いいこの恋。いいこの「い」は依存の依、「こ」は恋。タイトルとキャラ名が良すぎる……。「いいこの恋」だけでも十分不穏だと思うんですが、それを人名にして漢字でさらに不穏。
 幼少期から妹に言い寄られ続けてきたが、ある日はっきりと拒絶、それでも続くので月に3万円要求するように……。1ページ目から「おじさん」の存在が言及されるが、おじさんとの関係、おじさんの目的は分からまま話が進んでいって、それがハッキリすると同時にエロパート開始。ちりぬいろは先生、過去作でもそうだったけど、ただの闇深作品じゃなくて冒頭からの不穏さを醸すのがめちゃくちゃうまいんですよね。状況がハッキリと分からないが嫌な予感がしたまま話が進んでいき、それが腑に落ちるとエロが開始。『五畳半の逢瀬』は完全に叙述トリックで、本作はそれに比べると少し大人しいんだけど、分からないことによる不安感がめっちゃ良い味を出してる。騙すことが主題じゃない分淡々と不気味な話になっていく恐ろしさ。
 過去作とも共通するのがヒロインの何考えてるか分からない、もしくは空虚なキャラクター性だと思うんですが、本作も空虚さはあるものの彼女の意志は強く、その真っ直ぐさには目を見張るものがある……んだけどそれ故の歪みが怖すぎるw バカで可愛いみたいな印象にもなるし、ざっくり言うとそれで正しいんだろうけど、それだけじゃない強さが彼女にはあって、だからこそ厄介極まりない。主人公である兄貴からビデオ鑑賞のokを得た際、漆黒の瞳でこちらをじっと見つめてくるコマが差し込まれて、それがひたすら怖い。やはりキラキラしたバカとは言い切れない、強烈な意志と行動力を感じる。そして、この「見つめられる」はラストにもう一度出てきて、ここで兄貴の敗北が確定する。ただ、そのときのヒロインの瞳は割とキラキラしてて日常モードなんですよね。起きてることは異常だし、兄貴もあちら側に堕ちてしまったという悲劇なんだけど、彼女は至って明るく嬉しそう、という歪み。この場面、要するにいわゆる鬱勃起で、おそらく兄貴は初めて妹に対して勃起をしたんだと思うんですが、その兄貴の勃起を漫画上では明確に描写しないまま終わっていく。ここめっちゃオシャレで良かった。読者は「察する」くらいの距離感のまま作品が終わっていくのが、兄貴の堕ちていく感じとしてめっちゃ的確。
 エロパート。要するに寝取られビデオレターというジャンルになると思うんですが(彼女でもなく好きでもないんだけど)、このジャンルにまだこんなにも新しいアプローチがあったのかと感動してしまった。あまりに禍々しい話にビビり散らしてしまうんですが、圧倒的に面白い。こういう話って「寝取る」側の悪意が前面に出がちで、本作もおじさんの悪意は強烈で、主人公の及ばない相手が出てきてしまったことによる絶望感があるんですが、それよりもやはり目立つのはヒロインの異常性ですよね。事態の割に悲壮感がないのが不気味というか、何考えてるか分からなくて怖いんだよなぁ。ハードプレイになっていくので被虐性とかは当然あるんですが、本人が事の重大さを分かってなさそう。この本来なら庇護対象にするべきだった妹が自分の言葉がキッカケでこんなことに……という寝取られ作品とは違ったニュアンスの絶望感であり、それ故の鬱勃起堕ち、というラストが良すぎる。

『言えない!シークレット』多紋サカキ

 彼氏との初めてを迎えたが、後ろの方に興味が湧いてしまう。多紋先生の可愛い絵柄に、圧倒的に可愛い話が展開されててマジ助かる……。直前に受けたダメージが癒されるようである。温冷浴。
 とにかくヒロインが可愛いんですが、作品のラブコメ感も最高ですよね。特に前半の「優しさが痛い」のくだりとか超微笑ましくて好き。みんな良い人なんだけど、それ故に性欲に囚われてしまってる自分が恥ずかしくなってしまい……というのはかなり人間の心理としてリアルというか、ほとんどの恋人関係で一度は発生する葛藤なのではないか。恋愛の美しさとその先にあるエロの後ろめたさという矛盾。
 そんなカミングアウトを受け入れてもらうことで2度目のセックスが開始。初めてじゃないから初々しさが主眼にならないが、その分膨れ上がった性への関心を実行していくことのドキドキ、厳密にはされることのドキドキでしょうか。あの彼女がこんなにエロくなって……みたいな豹変の魅力。これは読者としても前半のラブコメ感からのギャップで味わえるので、作品の視点がいつの間にか彼女から彼氏の方へとシフトしていく。この気づくとスイッチしてる感じ見事でしたね。常にヒロインの可愛い姿を描いてるんですが、彼女の葛藤が解消され、彼女が思うままに行動するようになると、今度はその行動に振り回される側の視点になる。ヒロインが最も可愛く感じられる視点を常にキープしてるようで素晴らしかったと思います。ただ受け身側の視点として終わるのではなく、最後にはヒロインに対する好きが溢れた彼氏側も行動がエスカレートしていって、という逆転も恋人同士のイチャイチャ感として絶品でした。
 あとラストページのゴムの中で射精する描写、めっちゃ良かった。中出しの断面図的な描写とは違った良さがあってとても好き。

エロマンガアカデミー」

 #54。ほしとラッキー先生による「『間』の使い方」。間! たしかにほしとラッキー作品は間が魅力的だ。たった一文字で伝わる作家性の魅力。セリフがあるわけではなく、具体的に話が大きく展開するわけではない、何もない一瞬、というのが改めて強調されることで生じるエモ。良いよね……。同じ構図が連続するとアニメーション的な効果が生まれるという話があったけど、この間にはちょっと映画的な良さも感じてしまう。何か読み取ろうとこちらがグイッと前のめりになってしまうんですが、そのままエロが始まったりするともう効果絶大。
 当たり前ではあるんですが、魅力的な作品を書く作家は自分の強みをよく理解して意識的にコントロールしてるのだな、と変な感心をしてしまった回でした。今回も面白かったぜ……とか思ってたら最後の近況報告のくだりで驚きました。どうかお大事に……。


 終わり。幸い痔にはまだなったことがないんですが、それ故に「麻酔打つほど大事になるの!?」とたまげた。怖い……。
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